TINA(Telecommunications Information Networking Architecture)


TINA (Telecommunications Information Networking Architecture)について、 その概略を述べます。
  1. TINAとは
    インターネットに代表されるネットワークを用いたこれからのサービスは,単体のエンドシステムが複数連携することにより実現され,機能的にも負荷的にも分散を前提としている.このときにネットワークには,マルチメディアの各メディアに見合った帯域/品質のパスを提供し,ネットワーク全体の管理機能,ルーチングなどのネットワーク特有機能を提供していくことにより,エンドシステムと連動したアプリケーション/サービスを可能とすることが求められる.
    このためには,マルチキャリアネットワーク/マルチベンダ環境下で,エンドシステムとネットワークが協調して,サービスを定義しかつ運用できる枠組み,すなわちネットワーキングアーキテクチャが重要な役割を果たす.
    ネットワーキングアーキテクチャへの重要な要求条件には,エンドシステムとネットワークのシームレス化,情報/アクセスのオープン性が挙げられる.シームレス化,オープン化の実現には,従来の物理的なユーザ・網インタフェースを分界点とするエンドシステム側とネットワークの機能分担ではなく,インテリジェンスの分散を前提とした情報の相互流通,アプリケーションの相互運用(インタオペラビリティ),サービス定義/改変の迅速化を可能とする共通基盤(情報流通ミドルウェアと呼ぶ)が必要となる.
    このような情報流通ミドルウェア,ミドルウェア相互のインタフェース及びその共通プラットフォームとしての分散処理環境(DPE:Distributed Processing Environment)を定義するために検討されてきたのが,TINA(Telecommunications Information Networking Architecture)である.
    TINAは,多様な電気通信サービスを展開できるためにユーザ装置(端末)とネットワークが協調するオープンなアプリケーションソフトウェアアーキテクチャであり,キャリア/コンピュータベンダ/通信機器ベンダが結集したTINA-C(TINA Consortium)において,インタオペラビリティを持ったミドルウェアの世界的な流通による開発効率の向上も狙いつつ展開が進められた.
  2. TINAの研究内容
    TINAの研究項目は多岐にわたりますが、全体のアーキテクチャ、サービスアーキテクチャ、 ネットワーク管理アーキテクチャ、分散処理環境などが大きな課題となっている. TINA-Cでは、全く新しいものを生み出すというよりも、既存の標準をうまく取り入れて、 それに必要なものを加えるという姿勢で臨んだ.
  3. TINA仕様の特徴 TINAは個々のサービス/管理機能を実現するアプリケーション層,複数のサービス/管理に共通な機能を提供する情報流通ミドルウェア層(両者を併せてTINAアプリケーションとみなす),これらを支えるDPE層の階層構造からなっている(図面参照).
    アーキテクチャにおける各階層で分担すべき機能の詳細と階層間のインタフェースをTINA仕様として規定している.ここで,DPEは別機器上に搭載された上位ソフトをあたかも同一機器上のソフトウェアであるかのように利用可能とする分散位置透過機能を司っている.
    DPE仕様の作成においては,CORBA仕様(Common Object Request Broker Architecture:アプリケーションソフトの相互運用性と移植性を保証するためにOMG(Object Management Group)が規定した仕様)をベースに,ユーザ情報と制御・管理情報の分離など,通信特有の要求条件を付加した仕様として規定することとした.
    TINAの特徴は,図に示すように,パソコン等の端末,交換機,ルータ等の伝達装置,サービス/管理サーバ等,情報通信ネットワークを構成する各機器に,共通のソフトウェア構造を適用することにある.
    TINA仕様の適用により,機能毎に作成されたソフトウェア部品(コンポーネント)が地理的に分散したハードウェア上に自由に配備され,これにより端末上のソフトとネットワーク上のソフトが連携した新しいサービスの提供が可能となるとともにサービス導入の迅速化,効率的開発,移植性の向上,ポータビリティが達成できることになる.
    加えて,ネットワークサービスアプリケーションが原則として自由にユーザ側から利用できること,同じ情報定義を共有することで,情報の開示/共有が容易になる.
    TINA仕様が世界レベルで普及すれば,マルチメディア用ソフトウェア特にネットワーキングミドルウェアの開発費用の削減と開発期間の短縮を実現できる.一方で,各社は同仕様に基づくアプリケーションソフトウェアの実用化・製品化を急ぎ,他社との競争に備える必要がある.このことから,TINA-Cの活動は「競争下の協調活動」と捉えることができる.
  4. TINA成果の概要
    TINA仕様は後述のTINA-Cにおいて1993年から1997年まで第1フェーズの検討が進められた.1998年からの第2フェーズはよりTINAの製品化,ビジネス展開に重きをおいて新体制で活動を継続し,2000年で独自仕様化活動を終えた.
    その後は,協調関係にあるOMGやITU-T(International Telecommunications Union-Telecommunication standardization sector)などの標準化団体で必要な標準化を継続し,TINA-Cの組織を解散し,TINA-ISC (International Scientific Committee)を作り,TINAコンセプトの普及を目的にTINA国際会議を開催していくことになった.
    以下に,得られた主な成果の概要を示す.
    (a)共通的仕様
    ・モデリング手法の確立:ISO/ODPの手法にもとづき,TINAシステムの静的な関係を示す情報モデル,機能間の関係を示すコンピュテーショナルモデル,機能を実際のシステムに配備するエンジニアリングモデルの3モデリング手法の,サービス・マネジメントを統合するTINAシステムへの適用法を明らかにした
    . ・ODL (Object Definition Language):TINAオブジェクト間インタフェースを記述するODLの仕様を完成しマニュアルを作成した
    . ・ビジネスモデル:各種のマルチメディアサービス実現にTINAシステムを適用する時のTINAシステムを運用する時の役割分担の参照モデルとそのインタフェースを定めたビジネスモデルを完成した
    . (b)コンピューティングアーキテクチャ
    DPE機能仕様(OMGのCORBAを基本仕様としてテレコム特有で必須な機能の拡張)をほぼ完成し,OMGに採用を働きかけた(一部は採用済み)
    . (c)リソースアーキテクチャ
    下位の伝達技術の違いを隠蔽した情報転送機能を提供するための規定であり,コネクションの設定・解放・QoS制御,ネットワークの構成管理などの仕様を完成した
    . (d) サービスアーキテクチャ
    各種サービス(通信系・情報系)のための共通部分の規定であり,ドメインへのコンタクト,サービスの起動・一時停止・終了,パーティの追加・削除,ストリームの追加・一時停止・削除,ネゴシエーション,ユーザモビリティのサポート,ユーザの認証、嗜好の反映など,コネクションを活用し,多様な形態のマルチメディアサービスを実現する,コネクションより上位の概念であるセッションの機能レベルの仕様を完成した.
  5. 1993年−1997年のTINA-C
    40社を越える,ネットワーク事業者/通信機器ベンダー/コンピュータベンダー/ソフトウェアベンダーで構成されていた.
    TINA-CにおけるTINA仕様検討は,米国ニュージャージー州のレッドバンクにあるベルコア拠点内に設けた研究環境に,各中心メンバー社が研究員を派遣し,結成されたコアチームによる組織的な研究推進と,各参加メンバー社独自の補助プロジェクトによる研究の補完/強化,加えて国際デモシステムによるアーキテクチャ検証,により進められた.
    NTTは,コアチームへの研究者派遣,2つの補助プロジェクトの提案,推進,国際デモシステム(TINA-WWD: WorldWide Demonstration)を通した実証と,いずれの面からも精力的にTINAの検討を進め,筆者もその中心的役割を務めてきた.
  6. 1998年−2000年のTINA-C
    1998年4月1日より,TINA-Cは最高運営代表(CEO)と最高技術代表(CTO)を擁する有限会社として再出発した.従来メンバー会社のみに閉じていた技術情報,仕様は一般に開示されホームページから取得することができる.
  7. 今後のTINAの展開
    TINA-WWDを通じて,TINA仕様が机上のものではなく,現実のシステムに適用可能であることが実証され,既に多くの準拠製品を持つCORBA仕様をDPE仕様のベースとし,実用化に向けた技術面でのハードルを低くしたと考えられる.
    1995年9月に開始されたACTS(情報通信分野におけるヨーロッパ共同体主催の研究開発プログラム)においても,TINA関連プロジェクトが多数採用された.
    TINA仕様の近未来の普及を見越して,TINA-C参加の欧州企業が準拠ソフトの開発を加速しつつあり,その際の仲間作りの場として,ACTSの枠組みを利用していたと見ることができる.石井もACTSプログラムのひとつであるATM障害管理機構の検討であるREFORMに1996年から2000年まで参加し,TINA仕様の実用化の面で検討を行った.
    ATMF(ATM-Forum)やIETF(Internet Engineering Task Force) などの伝達技術の標準化,OMGなどのプラットフォーム技術の標準化,TMF(Telecommunication Management Forum)などの網管理という特定分野でのアプリケーションの検討とは異なり,より高位のアプリケーションまでを含むデファクト標準化を行う場としてのTINA-Cの位置づけは重要であったと考えられる.
    このように,TINAの利用の環境条件は整いつつある状況下で,TINA-Cは,仕様開発や実験室,プロトタイプレベルのシステム化から,実用ビジネスへの展開を強く指向してきた.この目標を現実のものとするために,各参加企業は,WG活動を主体として,個々の階層のインタフェース仕様開発のみならず,必要な仕様を垂直統合したシステム化を進めてきた.また多くの関連標準化団体でTINA-C仕様をもとにした標準化が進められている.TINA-Cが解散した現在,明示的にTINA仕様と標榜するしないに関わらず,通信と情報処理が融合したシステムアーキテクチャは現在の常識となり,TINA-Cはその役目を十分に果たしたと総括できる.
    TINA国際デモの写真です。

    TINA国際デモスタッフです。



TINAについて詳しく知りたい人はTINA-Cホームページを 訪れて下さい。